大判例

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東京地方裁判所 昭和27年(モ)8302号 判決

債権者 アルコール興業株式会社

債務者 芝浦土地株式会社

一、主  文

当裁判所が昭和二十七年(ヨ)第四五八一号仮処分命令申請事件について昭和二十七年九月八日なした仮処分決定はこれを取消す。

債権者の本件仮処分の申請はこれを却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

債権者代理人は、「当裁判所が昭和二十七年(ヨ)第四五八一号仮処分命令申請事件について昭和二十七年九月八日なした仮処分決定はこれを認可する。」との判決を求め、その理由として、債務者は昭和二十六年五月三十日現在において債権者に対し総額金三千三百万円の貸金債務を負担していたが、同日右貸金を消費貸借の目的とし弁済期同年十一月三十日、利息年一割、元金と同時払い、期限後の損害金百円について一日金十五銭の約で準消費貸借契約を締結し、その担保として債務者所有の東京都港区芝浦二丁目一乃至三番地、同区西芝浦三丁目一乃至三番地、同区西芝浦四丁目一乃至四番地、同区海岸通三丁目一、二番地所在の土地(以下本件土地という)について第四順位の抵当権を設定すると共に右弁済期に右債務を完済しないときは代物弁済として右土地の所有権が当然債権者に移転するものとする旨の停止条件附代物弁済契約を締結したところ、債務者は右弁済期に右債務の履行をしなかつたので、右代物弁済契約に基き債権者は昭和二十六年十二月一日本件土地の所有権を取得するに至つた。而して債務者は従来別紙目録<省略>記載のとおり各借地人に本件土地を賃貸していたので、昭和二十六年十二月二十四日債権者は債務者及び右借地人に右賃貸借の承継並びに地代の支払方を通知したが、右借地人はその頃債権者の本件土地の取得を争い地代の支払を拒絶し、債務者は依然継続してその地代を取立て受領してその使用収益をなし、債権者の右土地の所有権を侵害しているので、債権者は右土地の引渡及び所有権移転登記手続を請求するため本案訴訟を当裁判所に提起し、目下その係属中であるが、債権者は昭和二十六年十二月一日以降右借地人等に対する本件土地の賃貸借契約の賃貸人たる地位を承継し、その地代を取得し得べかりしに、右のとおり債務者が本件土地の引渡及び所有権移転登記手続に応じないため、右地代を取得できず、その地代相当額の損害を蒙つているのであるが、他方債務者は他に莫大な債務を負担し、これという資産もないため、後日本案訴訟においてたとえ債権者の勝訴の判決を得ても、債権者の前記請求権の強制執行は著しく困難になり或は債権者は回復すべからざる著しい損害を蒙ること明かであるから、右強制執行の保全のため又は右著しい損害を避けるため本件土地について別紙目録記載のとおり各借地人から地代を取立てることを債務者に禁止する必要があるので、本件仮処分申請に及んだ次第であると述べ、債務者の主張に対し、現在債務者が土地の所有及び賃貸を唯一の営業とする会社であること、債務者の所有土地及び本件土地の坪数がそれぞれ債務者主張のとおりであること、本件土地の賃料が債務者主張のとおりであること、本件土地の昭和二十七、八年度固定資産税額が債務者主張の額の七十六パーセントであること、本件仮処分の目的は結局において債権者の経済的利益を保全し、損害の発生を未然に防止するにあるので、相当の保証を立てることによつて完全にその目的を達するものであることは認めるが、その余の事実は争う。仮に特別事情により本件仮処分決定が取消さるべきものとしても、本件土地の地代は一ケ月金九十六万円であり、一年間では金千百五十二万円であるところ、固定資産税その他取立費用等の雑費合計金五百万円を右地代から控除した金六百五十二万円が本件土地から上る純収益である。そして本件紛争が終局的に解決するには少くとも今後三年間はかかるから、債権者が本件仮処分決定の取消により本件土地を使用収益できない結果蒙る損害は本件土地の三年間の純収益合計金千九百五十六万円に相当する。従つて本件仮処分を取消す場合には債務者に右と同額の保証を立てさせることを条件とせられたいと述べた。<立証省略>

債務者代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その理由として、債権者主張の事実のうち、債務者が別紙目録記載のとおりの各借地人に本件土地を引続き賃貸していること、債権者主張のような本案訴訟が提起され目下その係属中であることは認めるがその余の事実はすべて否認する。

(一)  仮に債権者が本件土地について所有権を取得したとしても、債務者に本件土地の地代の取立受領を禁止することは本案たる本件土地の引渡及び所有権移転登記手続請求権の執行保全のための手段とはならないから、本件仮処分はその必要性がなく、取消さるべきものである。

(二)  仮に右が理由ないとしても、本件仮処分は民事訴訟法第七百五十九条に所謂特別事情により相当の保証を立てることを条件として取消さるべきものである。すなわち、債務者は実際上土地の所有及び賃貸を唯一の営業とする会社であつて、その企業としての存立は一に賃貸料の収入にかかつているものであるところ、本件仮処分により殆どその事業が壊滅に頻するほどの異常な大損害を蒙つている。債務者の全所有土地の面積は合計十一万五千坪余であるが、本件土地はその面積合計約九万千坪余であつて全所有土地の七十九パーセントを占め、賃料の点からいつても、全所有土地の賃料総額一ケ月金百二十六万円のうち本件土地の賃料は一ケ月金九十六万余円であつて、全体の七十六パーセントを占めている。しかも債務者は本件土地に対する回定資産税として昭和二十七、八年度分合計約金九百十万円に達する税額の決定を受けている。又借地人側からみても、その地代未払額は月と共に漸増して巨額に達すること明らかであり、現下の経済事情よりして本件仮処分について債権者がたとえ勝訴しても右多額の未払地代を一挙に取立てることは不可能である。以上のように債務者の唯一の収入たる所有土地の地代の七十六パーセントを止められ、巨額の国税の徴収に迫られ、一方滞積してゆく賃料の取立困難な状況に追いこまれた次第であつて、本件仮処分により債務者は本件土地の地代取立禁止の結果殆ど企業の壊滅に頻しその存立を脅かす程の重大な損害を蒙つている。他面債権者は結局において本件仮処分によつてその経済的利益を保全し、損害の発生を未然に防止しようとするのが、その目的であつて、相当の保証を立てることによつて完全にその目的を達することができる。以上の事情は民事訴訟法第七百五十九条に所謂特別事情に該当するから、本件仮処分決定は同条により取消さるべきものであると述べた。<立証省略>

三、理  由

債権者がその主張の如く仮処分申請をなし、当裁判所が昭和二十七年(ヨ)第四、五八一号事件として、同年九月八日「債務者は別紙目録記載の各借地人に対する地代を取立て又は受取つてはならない」との仮処分決定をなしたことは、当裁判所に明なところである。

債権者は、仮の地位を定める仮処分として、債権者が本件土地を代物弁済により債務者より取得したところ、偶々本件土地が債務者より右借地人等に賃貸されているので、債権者は賃貸人たる地位を承継し右賃料債権を取得するに至つたが、債務者は本件土地の移転登記に協力せず且依然として右賃料を取立て、債権者の本件土地の所有権を侵害しているので、その排除を求める旨主張するので、この点につき前記仮処分申請の当否を案ずるに、成立に争のない甲第三、第四、第十号証弁論の全趣旨に照し真正に成立したと認める甲第一号証の一の一、二及び甲第九号証を綜合すれば、債権者主張の日に債権者と債務者間に債権者主張の如き準消費貸借契約が締結され本件土地に抵当権が設定されると共に債権者主張の如き停止条件附代物弁済契約が締結され、債務者が弁済期に右債務を履行しなかつたので右代物弁済契約に基き債権者が昭和二十六年十二月一日以降本件土地の所有権を取得するに至つたこと及び本件土地が前記借地人等に賃貸中であることを、一応認めるほかなく、前顕甲第十号証に照せば乙第一乃至第三号証の記載を以て右認定を覆すに由なく、他に右認定を左右するに足る疏明がない。而して、債権者が本件土地につき未だその移転登記を経ず前記借地人等が債権者の本件土地の取得を争つていることは債権者の認めるところであるので、以上の事実によれば、債権者が債務者に対し本件土地につき移転登記請求又は引渡請求をなしその執行保全のための仮処分申請をなし得ること勿論なりと雖、債権者は未だ前記賃料債権を取得せず、債権者が本件土地につき移転登記を経てその取得を前記借地人等に対抗し得るに至つてはじめて前記賃貸借を承継し前記賃料債権を取得する事情にあるものというべきを以て、前記賃料債権の帰属につき債権者と債務者との間に争ある場合と同一に論じ得ず、債権者は前記賃料債権保全のためとしては、債務者の賃料取立を禁ずる仮処分を求めるに由なきものと言わざるを得ない。然しながら、債権者が債務者との間においては、既に本件土地の所有権を取得していることは前記の通りであるので、この限りにおいては債務者は本件土地の使用収益をなすことを得ずまた前記賃料を取得するに由なきものというべきを以て、かような場合に債務者が前記賃料を取得することは債権者と債務者との右法律関係を害することを否定し得ないところにして、債権者は右法律関係に基きその排除を求め得る余地のあるものと考えざるを得ない。而して、かような妨害は債務者の債務不履行に基因するものにして、その排除を求める仮処分は、債権者の占有中の土地を実力を以て妨害する場合と異り、債務者が占有中の土地につきその使用収益を禁ずる仮処分とその性質を同じくし、その必要性も異り、債務者の賃料取立により債権者の賃料債権が消滅する虞のある場合のほか、仮に本件土地につき債権者に移転登記又は引渡をなす必要のある場合に限り許容さるべきものと考えざるを得ない。従つて、前記事実関係の下においては、債権者は前記賃料債権を有せず唯本件土地についての移転登記請求又は引渡請求をなし得るに止るを以て、債務者の賃料取立により債権者の賃料債権が消滅するものとして、前記仮処分の必要性を充すものとなすに由なく、また債務者が取立てたる賃料を費消し後日債権者が本件土地についての移転登記又は引渡の遅延による損害賠償債権につき確定判決を得てもその執行を不能にする虞のある事情の如きは、右損害賠償債権の執行不能の事情にして、前記仮処分の必要性を充すに由なきものと考えざるを得ない。他に前記妨害排除の仮処分を許容するに足る必要につきこれを認めるに足る疏明がない。

然らば、前記仮処分申請はその必要の疏明を欠き、保証を以てこれに代えるを相当とは認められないので、債務者のその他の主張につき判断するまでもなく、理由なしとして却下すべく、当裁判所が先になした前記仮処分決定はこれを取消すべきものといわざるを得ない。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 脇屋寿夫 田中正一 輪湖公寛)

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